悪への衝動

「悪への衝動 (人間生来の本能、とくに性欲から生まれるところの傾向) をはなはだ良いと呼べるのか、との疑問に対して、「この衝動がなかったならば、人は家を築き、妻をめとり、子をもうけ、生計を営むことは不可能である」との解答が与えられた」

「ゆえに、この衝動は、結果としては悪行を生むにもかかわらず、人間にとっては必須の一部であり、彼に道徳的存在となる可能性を与えるのである。それなくしては、人間は悪を行う可能性を奪われ、その結果、善行も意味を失う。」

「悪人は自分の欲 (すなわち、悪への衝動) の支配下にあり、義人は自分の欲を支配している」

「強い者とはどういう人をいうのか、との問いに対しては「自分の衝動を克服できる人」という解答が戻って来る。」

「わが子らよ、わたしは悪への衝動を創造し、それに対する解毒剤としてトーラー*を創造した。きみらがトーラーに没頭すれば、悪への衝動に身を任せることはあるまい」

「人の生き方はその欲によって形成される。人は、自分がそう欲すれば、人生の機会を誤用することもできる。悪への衝動は普段に彼をいざなうが、彼がそのわなにおちたら、それはあくまでも彼だけのせいである。」

 

 *=ユダヤ教の聖書のひとつ

 

ーA. コーヘン「タルムード入門 I」より

 

タルムード入門〈1〉

タルムード入門〈1〉